★既にご存じの方もおられるかと思いますが、アストラゼネカのポール・ハドソン代表取締役社長の手記が「日本経済新聞」に3回にわたり連載されましたのでご紹介いたします。
第一回「2012年12月17日(夕刊)」
<Nipponビジネス戦記>― ― 優れた知恵、遠慮せず発信を!
日本は発想豊かな国だと思う。ユニークなアイデアが生活のあらゆる場面で見受けられる。ところが、日本の優れた知恵の多くは海外では知られておらず、いまだに神秘的で閉ざされた国との印象を持つ外国人も多い。 この背景には日本人の謙虚さ・奥ゆかしさもあるが、言語の壁もある。日本に赴任する前、世界各国との電話会議で日本人の発言がほとんどないことに気付いた。伝えたい内容は多くあるのに英語で伝える自信がないためだと分かり、とても残念だった。知識も経験も豊富な日本からの発言があれば、国際チームももっと広範囲にビジネスの機会を模索できたはずだ。 私自身、仕事で外国語を使うことのもどかしさは、痛いほどよくわかる。スペイン語での顧客との会話は、自分の考えをうまく語れず、歯がゆさや窮屈さを感じたものだ。思慮深い日本人にとっては、さらに勇気がいることだと思う。それでも私はあえて積極的に英語で話すようにと社員に働きかけ、研修にも一層力を入れたい。 それは社員のキャリアを伸ばすためだけではない。日本について十分に代弁できる資質を備えた日本人社員が英国本社で、会議はもちろん廊下の雑談においても積極的に会話に参加することが大切だ。多くの社員が声を合わせれば、日本の声がさらに力を帯び相手に響く。そうして培った信頼関係は、海外から日本への支援を可能にし、日本での成功を海外での発展に役立てる大切な役目も果たす。 ぼくとつでもよい。自分の言葉で思いを伝えようとする真摯な姿勢は、相互理解を育み、やがては強い絆をももたらす。真の意思疎通の第一歩だと思う。
第二回「2013年2月4日(夕刊)」
<Nipponビジネス戦記>ーーイノベーションを生む組織
日本社会は「和」を重んじることで知られる。日本人のこまやかな心遣いは隅々まで行き届き、個人の行動や振る舞いも、周りとの調和や呼応が期待されている。 一方、私はこの尊い調和の精神が、時として全員一致の合意形成を偏重する弊害につながるのではないかと危惧していた。調和を敬うがあまり、それぞれが個人の意見や独自の考えを交わし十分な議論を尽くす機会を敬遠しているのではないかと。多様な物の考え方や価値観を受け入れる器量を持たない組織では、イノベーションの芽も育たず、個人のユニークな発想を摘みとってしまうからだ。 そんな中、社内のベテラン営業部長がある本で読んだという話を聞き大いに勇気づけられた(宮大工の西岡常一氏著)。宮大工が代々口伝する教えによると、宮大工は木の癖を見抜かなければならない。性質を見極めてうまく組むことが重要になる。癖があるからとはじくのではなく、それぞれの癖を生かして使うことが腕の見せどころという。 この話を聞きながら、新入社員に思いをはせた。若い彼らは柔軟な創造性を持ち、他人と異なることを決して恐れず、社会人としてのスタートに胸を膨らませる期待の星だ。 我々会社のリーダーに共通する挑戦は、若い社員が一人前に仕事をこなせるよう必要なスキルや手順を教える一方で、一人ひとりが生まれながらに持つ貴重な個性や強みを決して失うことなく大事に育み、組織の力に生かすことだろう。それができてこそ、絶えずイノベーションを生み出し、多様性に富み、自己改革をし続ける組織づくりが可能になるのだと肝に銘じたい。(最終回の第三回は一週間後に掲載します)
第三回「2013年3月11日(夕刊)」
<Nipponビジネス戦記>ーー次世代のリーダー育てる
会社に対する期待は、世代によって異なるのではないだろうか。次世代のリーダーたちは、過去とは違った期待や要望を持っているように感じている。多様性にあふれた価値観を有し、個々の違いを認め合う。目的地までの道筋を教えられるよりも、自らの方法で結果をもたらすことを目指す。同期入社の友人と一緒に昇進していくより、独自のキャリアを積むことに期待する。 経営陣として私たちは、若手のリーダーの育成に力を注がなくてはならない。若いうちから国内外で幅広い経験を積ませ、広い視野を育てる。それにより、彼らの自由な発想を経営に採り入れ、恒久的な事業の発展を支えることになるだろう。更には、全社員が生き生きと働ける職場の実現につながるのではないだろうか。 たくさんの学びをもたらしてくれた日本に別れを告げ、次の勤務地米国に向け旅立つこととなった。そうなって初めて、気付くことがある。気遣いながらもあえて立ち入らない慎み、一度口にしたら必ず守る律義さ、共同責任と調和の精神、時刻通りに到着する電車、京都や桜の美しい風景・・・・・。若い世代がどれほど大きな野心を抱きグローバル化されようとも、この素晴らしい風土の中で生まれ育ち、過去を大切に守り続ける限り、日本の将来を立派に担うと信じている。 日本での勤務経験は私の仕事人生を豊かなものへと変えてくれた。この国で私と家族に寄せられた温かい善意に報うためにも、今後も日本と海外の人材交流を通じて、国際的な視野を兼ね備えた若い日本人リーダーの育成にお役に立ちたいと願っている。(完)
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